業務改善に取り組みだすと、現場で実際にどのように業務がなされているのかを知りたい・・・そんな要望が必ず出ます。それにこたえるのが、業務フロー図、業務フローチャート、流れ図、プロセスマップなどと総称されるものです。
筆者は「業務フローチャート」という言葉を好んで使っていますが、googleで検索すると、「プロセスマップ」のヒット件数が多いことから、本コラムの中では、より多くの方になじみがあると思われる「プロセスマップ」という言葉を使って話をすすめていきましょう。
プロセスマップは、代表的なものだけでもいくつかの手法、つまり書き方があります。産能大式、BPMN、プロセスチャート、UMLなどです。プロセスマップに関心がなければ、それぞれの差異などどうでも良いことですが、仕事上、業務フローを見える化する必要に迫られ、自分なりに苦労していると、それぞれの書き方についてある程度知識を持ちたい!と思うものです。
筆者自身もかつてそう思ったことがありました。これは本題からは少しはずれますが、1つの業務の事例を様々な書き方でプロセスマップ(フローチャート)にすると、それぞれどんな体裁になるのか、参考までに、PPT(Microsoft Office PowerPoint)でダウンロードできるサンプルを用意しています。
関心のある人はビズハックからダウンロードしてください。
さて、今回の本題は、プロセスマップの書き方そのものではなく、
- ■「業務フローとは何か?」
- ■「業務フローが見えると何が嬉しいのか?」
- ■「業務フローを見るために重要なことは何か?」
についてです。そして、これらのポイントをふまえた上で、筆者が推奨するプロセスマップについても最後に少し触れておきたいと思います。
■「業務フローとは何か?」
業務フローとは、その名のとおり業務の流れをいいますが、業務を「何の流れ」で捉えるかは迷うところでしょう。代表的なものには、「作業手順の流れ」「インプット・アウトプットの流れ(書類やデータの流れ)」があります。
注意を要するのは、「作業手順の流れ」と「インプット・アウトプットの流れ」が別物であるという点です。例えば、下の図を見てください。
図中の実線は「作業手順の流れ」を示しており、破線は「インプット・アウトプットの流れ」を示しています。「作業の流れ」と「インプット・アウトプットの流れ」は別の流れで表現されることがわかるでしょう。
ひとつのプロセスマップに2つの流れを盛り込むと、たしかに詳細な情報は得られますが、流れ線が入り組み、複雑になります。そこで通常は、「作業の流れ」か「インプット・アウトプットの流れ」のどちらか一方のみで業務を捉えることになります。
筆者の経験上、業務現場の9割の方が「作業の流れ」でプロセスマップを書き、監査関係の方は「インプット・アウトプットの流れ」で書かれたプロセスマップを見たがる傾向があります。
いずれであらわすにしても、このように、業務をある視点の流れから捉えたものが業務フローといえます。そして、それを図示して「見える化」する手法が、広義でのプロセスマップと呼ばれます。
ところで、この流れについて一言つけくわえておきましょう。流れは必ず時系列になっています。したがって、業務を構成する単位(タスク/作業)を「難易度順に流れで示す」「所要時間順に流れで示す」というのは、プロセスマップではなく、したがって業務フローを扱っているとはいえません。
■「業務フローが見えると何が嬉しいのか?」
前項で、業務フローとは業務を構成単位(タスク/作業)に分割して、それぞれを時系列上のある視点から流れによって理解すること、と説明しました。では、それが見えると、つまりプロセスマップとして可視化できると、何が嬉しいのでしょうか?
まず、業務という1つの塊が、構成単位に分割されることが、嬉しいのです。
分析という言葉がありますが、「分」も「析」も分けるという意味です。つまり、わけて、わけて、わけまくることが分析の本質なのです。1つの塊として認識していた業務は、業務フローとして捉えるために分割することで、分析可能となります。業務を分けていくと、フローの中に存在する問題点がピンポイントで見え、具体的な打ち手が明確になります。マラソンのタイムを42.195kmで計ったその結果を見るのではなく、ラップタイムで区切って計っていくことで、走者の強み弱みが具体的に見えてくるのと同じです。
業務フローが見えると嬉しい理由の二点目は、時系列の流れによって因果関係の関連性が見えてくることです。何か問題が起こるとき、その原因は必ず、それ以前に発生しています。時系列の流れは、因果関係を発見するのに大変役に立つのです。
■「業務フローを見るために重要なことは何か?」
それでは、業務フローを見るために重要なことは何かを考えてみましょう。
業務改善では、何か問題が生じていてそれを改善したいと考えているわけですが、その問題は往々にして、細部で発生しています。つまり、イレギュラー(例外処理)のプロセスで起きているのです。いつも通りに、いつもの業務をしていて問題が発生するということは、実はそれほど多くありません。したがって、業務フローを見るには、細部が見えるプロセスマップによって図示することが重要になります。
そしてもう一点は、図示することによって関係者と共通の理解を得ることが、業務改善では重要になるということです。したがって図示されているもの、つまりプロセスマップが、関係者との間の共通言語として機能しなくてはいけません。私たちが普段日本語で話すのは、共通言語だからです。共通言語としてのプロセスマップは、できるだけ簡単に理解でき、なおかつ、関係者にとって正確な意思疎通を可能にするものであることが重要です。
にもかかわらず、筆者が職業柄これまで見てきた既存のプロセスマップの書き方(産能大式、BPMN、プロセスチャート、UMLなど)は、業務現場の人たちにとっては共通言語としては難しすぎたり、細部を図示するのに不向きだったりと、必ずしも最適とはいえないものでした。そのため、株式会社プロセス・ラボ(筆者が代表を務める会社)では、既存のプロセスマップに変わりうる「新しい」業務フローを図示する独自の手法を開発し、3年前から一般公開をスタートしました(プロラボ・メソッド(PLメソッド)と名付けています)。このプロラボ・メソッドについては別のコラム(ビズハックへ)で詳しく説明しています。また、本コラムの冒頭で触れた、各手法によるプロセスマップのサンプル内に、プロラボ・メソッドのサンプルも掲載していますので、関心のある方はぜひ参考にしてください。
さて、今回のコラムでは、業務フローとは何か、業務フローを可視化する目的とその手法のポイント、つまりプロセスマップはどうあるべきなのかについて考えてみました。
プロセスマップを作る手法は様々ありますが、プロセスマップを作ること自体が目的ではありません。プロセスマップを上手につかって、業務改善に取り組みましょう!