連載第4回目の今回は、作業の要素の中で最も可視化が難しい「時間の概念」を、どのように業務フローチャートに盛り込むのかについて解説します。
●時間を業務フローチャートの基本要素にすることの意味
ビジネスにおいて、時間の概念は重要です。経営戦略、新製品開発、製品・サービスの提供などさまざまな局面で、「市場のニーズに応えるスピードが競争のカギだ」といったいい方がされます。
業務フローチャートは、「業務プロセスを可視化する」ためのものだから、現実の業務において時間が不可欠な要素である以上、業務フローチャートにも必ず盛り込むべきと考えるのが筋でしょう。現実的なメリットもあります。業務フローチャートに時間の概念を盛り込めれば、業務改善や担当業務の見直し、リードタイムの縮小などに役立つ、価値ある情報が得られます。
●時間の概念の定型化と表記方法
従来、業務プロセスにかかわるさまざまな情報を1枚の紙に可視化しようと努力が続けられてきたにもかかわらず、時間の概念を盛り込む方法で、標準化され、定着しているものはありません。「担当者や担当部署によって仕切られたスイムレーンに作業をプロットする」という従来の描画主体の手法では、時間に関する情報を「吹き出し」に描き込んで、作業の脇に添えるといったやり方を提唱していますが、これでは、標準化しているとはいえません。
そこで、時間の概念を、業務フローチャートに直接盛り込む方法を考えていきましょう。標準化のための課題は2つあります。第1に、時間に関する記入内容を定型化することです。第2に、表記の問題、つまり業務フローチャートのどの部分に定型的に盛り込むのかということです。
まず第1の課題、記入内容の定型化について考えてみましょう。そもそも、「時間」を認識する際、とらえ方は2通りあります。「点」と「線」、つまり、「いつ」という点と、「どのくらいの期間」という線です。さらに考えると、「どのくらいの期間」というのは、その期間の開始と終了の差であるから、結局、期間という「線」も「いつ」という「点」によって定義できます。
業務に関する「点」は、作業の開始と終了です。従って、時間に関する記入内容の定型化は、結局、作業の開始と終了という「点」の内容をどのように定型化するかという問題になります。
ここで、現場で実際に起こり得るパターンを思い起こしてみましょう。作業の開始と終了を表す「点」は、大きく分けて2通りあります。1つは、絶対的な時間軸、例えば「毎朝9時に開始」「毎週火曜日に発信」「毎月5、10日に締め切り」といったものです。もう1つは、相対的な時間軸で、ほかの作業を起点としているもの、例えば「前の作業が終わってから10分後に開始」といったものです。
このように、時間という「点」をとらえる切り口として、開始/終了、絶対/相対を組み合わせると4つの場合があることになります。ただし、これらのうち「絶対的な終了」はありません。なぜなら一見絶対的な時間軸で終了するようでも、実際にはほかの作業を起点にしているからです。例えば、「受注処理は毎日18時までに終了」といわれている作業であっても、よく見ると「受注処理は、受注ファックスが到着した当日の18時までに終了」というように、ほかの作業がもともとのきっかけになっています。
なお、ほかの作業を起点とせず、かつ特に開始する曜日や日時が決まっていない作業は、便宜的に「絶対的な開始」と考えて整理します。例えば、ファックスが舞い込むたび、書類ボックスがいっぱいになるたびにスタートするような、随時始める作業です。
次に、第2の課題、業務フローチャート上の表記方法について考えてみましょう。第1の課題である記入内容の定型化については、時間は「絶対的な開始」「相対的な開始」「相対的な終了」の3つの型でとらえられることが分かりました。これらを、表記方法にどうひも付けできるかが、次の課題です。
「相対的な開始」と「相対的な終了」は、1つの線上で表すと理解しやすいので図7のように、さらに「絶対的な開始」は図8のように表記してみることにします。
図8:絶対的な開始の表記
絶対的な開始の表記 (随時:必要なインプットがフローの範囲外から不定期に入手され、それをきっかけに開始する 適宜:必要なインプットがそろっていても、すぐには開始せず、日時以外のトリガーで開始する)
●ケーススタディ:新発想の業務フローチャート
第3回までで、新発想の業務フローチャートの記載ルールを以下のように定義しました(連載第3回 図6参照)。
【要素】 | 【分類】 | 【ルール】 |
---|---|---|
誰が | 絶対的記載事項 | スイムレーンにより定義 |
どうする | 絶対的記載事項 | 「何を」のスイムレーン内に情報を加工する動作を体言止めで記載 |
何を | 絶対的記載事項 | スイムレーンにより定義 |
ここで、3つの要素から表記された業務フローチャートに、「時間」という4つ目の要素を加えます。これまでのケーススタディに、次のように具体的な時間を加えて考えてみましょう。
1. 塚口:
私がお客さまからの注文書を受け取っています。注文書は随時ファックスで送信されてきます。ファックスを受け取ると私は、注文書に日付印を押して、その後、すぐに森山さんのIN-BOXに保管します。IN-BOXには必ず当日中に入れるようにと森山さんからは指示されています。
2. 森山:
注文書に関して私のやる仕事は、まず形式的な不備をチェックして、問題がなければ注文内容を社内システムに入力します。次に、その顧客の与信残高一覧を社内システムから印字して、注文書にセットし、各営業担当者に渡します。ここまでの作業を、注文書の到着から2営業日以内に行う必要があります。
3. 田中:
私たち営業担当者は注文書を受け取ると、個社別のクレジットファイルを棚から取り出してきます。新規の注文により発生する売掛金が、すでに稟議(りんぎ)済みの与信枠の範囲に収まることと、注文内容や仕様が稟議済みであることも確認します。問題がなければ、注文書に捺印(なついん)をして、森山さんに戻します。その後、森山さんは課長の決裁に書類を回すのですが、それが毎週金曜日なので、営業担当者は、遅くても木曜日中に戻すようにいわれています。
上記の例を業務フローチャートにすると、図9のようになります。
図9:時間の要素を加えた新発想の業務フローチャート
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このように、新しいフローチャートでは、「時間」についても一定の統一されたルールにしたがって表記することが可能となることが分かったと思います。
本連載ではこれまで4回にわたり、業務フローチャートの課題を理解し、その解決策を提示しながら新しい業務フローチャートの解説をしてきました。最終回となる第5回ではそのまとめと、作成されたフローチャートをどのように活用していくのかについてお話します。